「マウス」(村田沙耶香)

空気なんか読むな!

「マウス」(村田沙耶香)講談社文庫

小学校5年生の
内気な女の子・律は、
目立たないことで
自分を守ってきた。
クラス替えで一緒になったのは、
友だちのいない浮いた存在で
いつも理由もわからず
泣いている瀬里奈。
ある日、泣いて教室を
飛び出した瀬里奈を追って
律が旧校舎へ向かうと…。

裏表紙の紹介文を読むと、
小学生どうしのやりとりを描いて、
少女が成長する過程を描く
筋書きだろうと想像していました。
読んでびっくり。
小学校5年生は前半部分のみ。
後半部は大学1年生になった
主人公の日常なのです。

前半部、
教室を飛び出した瀬里奈を追った律は、
トイレの清掃用具入れの中に
閉じこもっている彼女を見つけます。
「灰色の部屋…
 私は、楽しいんです、
 小さいころから
 その部屋にいることを
 想像するだけが、
 私の楽しみだったんです。」

再び瀬里奈が閉じこもったとき、
律は扉の外から「くるみ割り人形」の本を
読み聞かせするのです。
以来、彼女はその物語の
主人公マリーになりきり、
クラスでも堂々と
振る舞えるようになります。

後半部、
8年の歳月が過ぎ、律は大学1年生。
ふとしたきっかけで
律は瀬里奈と再会します。
彼女は未だに
毎日「くるみ割り人形」を読み続け、
マリーになってから外出していたのです。
マリーにならなくても
生きていけるようにと、
律は「くるみ割り人形」を読むのを
やめるよう彼女に働きかけます。
結果、少しずつ瀬里奈は
独り立ちしていくのです。

と、ここまで書くと、
律が瀬里奈の自立を後押し
しているように思えますが、
実は逆です。
周囲に流されずに
自分を守ってきた瀬里奈の姿から、
周りに迎合して
自分のしたいことを何一つ
してこなかった自分に、
律は気付いていくのです。
瀬里奈の頑なな性格を変えようとして、
いつしか臆病な律が成長していく。
ここが本書の読みどころなのでしょう。

小学生高学年あたりから、
子どもたち、
特に女の子は周囲を気にします。
空気を読むことに気を配ります。
そして空気を読めないことを
悪いことのようにとらえがちです。
でも、私はいつも
子どもたちに言っています。
空気なんか読むな!と。
本作品が伝えていることが
まさにそのことだと思うのです。

周りを気にするのではなく、
自分らしさと
自分で考えることの
大切さを教えてくれる一冊。
中学生の女の子に
ぜひ薦めたいと思います。

(2020.2.18)

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